平均の半分ほどの陣容で管理できた!
はじめに、私たちfreeeのバックオフィス体制がどうなっているか、ご説明したいと思います。なぜなら、私たちは「自社こそが理想的なバックオフィスをつくることが必要だ」と考え、実践しているからです。
私たちは現在、従業員450名に対し、経理要員は1.5名、人事労務の担当者はひとりでまわしています。通常300名くらいの法人ですと、経理担当約4名、人事・労務担当約3名が平均値なので、おおむね半分でおさまっています。
なぜそんな少人数で管理できるのか。その秘密は、基幹システムとして自社の商材である『freeeクラウドERP』をそのまま使ってることです。会計システムと人事労務システム、この2つのシステムを統合的に管理したからこそ、効率化されたバックオフィス体制を構築できたのです。
生産年齢人口が劇的に減少し、慢性的な人手不足となる日本。労働生産性向上は緊急の課題となっています。その課題に対し、私たちは「人工知能」と「統合基幹業務システム」を、クラウド技術を活用することで全国へ提供。中堅中小企業のバックオフィス業務効率化をサポートしています。
freeeは2018年4月で設立6年を迎えました。国内外の投資家に評価され、現在は資本金が約96億円あります。東京・五反田の本社オフィス以外にも営業拠点をどんどんと増やしています。しかし、創業者で代表取締役の佐々木大輔がGoogleを辞めてfreeeを立ち上げた頃は、管理の体制は属人的なものでした。たぶん、多くのスタートアップ企業が同じような苦労をしていると思います。
具体的には、請求書の発行や経費精算の申請書チェック、給料の振り込みなど、やらなければいけない処理が月末に集中する。その際、インターネットバンキングでひとつの案件の処理ごとに、ぽちぽちと画面のボタンを押していく作業が発生します。これは、正直に言えば、だれがやってもいい作業です。ほんの30分程度、教えればアルバイトスタッフでもできることです。それを管理部の方々、ひどい場合には経営者がやっている。
なぜ、ほかに「その人しかできない重要な仕事」を抱える方々が時間を割く必要があるのか、疑問に思いませんか? 私たちはスタートアップやベンチャー企業など、小さな規模でのビジネスにかかわる方々、みなさんが創造的な仕事に時間を使っていただける環境をつくっていくために、「この作業をシステム化できるのではないか」と考え、製品開発を推進してきたのです。
監査対応含め完全ペーパーレス化
開発の努力の結晶が『freeeクラウドERP』です。これを導入すると、バックオフィス業務は格段に効率化されます。たとえば私が経費精算を提出するとしましょう。パソコンやスマートフォンを操作し、その月の経費データをfreeeのシステムにアップします。すると、そのデータがそのまま管理部に届き、自動的に仕訳が打ち込まれていくんです。そして、その仕訳表を確認して、管理部担当者が承認ボタンを押します。
さらに、この経費精算の結果を給料の明細に反映させるボタンを押すと、それが自動的に労務側のデータに飛び、給料と一括で私に振り込まれるわけです。会計と人事労務が連結していて、かつ、仕訳入力していく会計システムと業務アプリケーション、経費計算のシステムがひとつになっているのです。
ここでみなさんは「経費のエビデンスになる領収書はどうしているのか?」と思うかもしれません。実はスキャンしてデジタル化して提出するんです。私たちは監査対応に関しても、紙は一切確認いたしません。そういう完全ペーパーレスのオペレーションをとっています。freeeの五反田のオフィスを見学していただくとわかると思いますが、紙は一切ありません。
パソコンひとつ持っていれば、そこから閲覧権限をもっているすべてのデータにアクセスでき、仕事ができる環境になっています。ですから、自宅でも作業が可能です。
これらの機能が評価され、現在、freeeのプロダクトは、クラウド会計と人事労務ソフト市場の中でトップクラスのシェアとなっています。最近上場された印刷物などのネット通販を手がけるラスクル株式会社も、昔からのfreeeユーザーです。上場準備段階の企業の導入がどんどん増えていますので、おそらく2020年頃になると、上場企業のユーザーが激増していると予想されます。
リアルタイムのデータで判断したいが…
freeeのプロダクトが多くの支持をいただいている理由のひとつは、経営者の意思決定の精度を上げることに、大きく役立っているからです。会社の立ち上げ期においては、管理業務をシステム化することにより、経営者自身がバックオフィス業務に携わる必要がなくなり、意思決定など、より重要度の高い仕事に専念できます。立ち上げ期を過ぎて、事業が軌道に乗って以降においては、「意思決定に必要な情報をより多く、より早く収集できる」ことで役に立っています。
今回、私は「経営者のすべき仕事は『意思決定』」というテーマを設定していますが、正直なところ、これは当たり前のことですよね。ただ、みなさんにお聞きしたいのは、「意思決定のために必要なデータが迅速に集まっていますか? そして意思決定のために必要な情報をすべて集まっていますか?」ということです。
たとえば、昨日、私が訪問した会社さんのケースでお話ししましょう。そこは動画制作プロダクションを手がけていて、年間約500本もの制作プロジェクトが走ります。月間にすれば30~50本くらいが同時並行で走っている。プロジェクトごとに原価と売上をみていかなければいけない。とくに経営者の方が知りたいのは、「どのプロジェクトが非効率になっているのか」ですよね。それを知るには、クリエイターの工数のデータも必要ですし、外注に出している金額のデータも必要ですし、経費の実費データも必要です。
ところが、それらをリアルタイムに確認できないんです。なぜならば、プロジェクトの工数についてはデザイン部門が管理している。外注先への発注は開発部門が管理している。かかった経費は月末に経理部門に回ってくる。そして売上は各営業所に契約のデータとして保存してある。といった具合に、データが分散しているんです。それらを経営企画部門が収集して、プロジェクトごとに整理して、経営陣に報告していました。そうすると、データが得られた時点から、経営者のもとに情報が届くまでに、相当なタイムラグが生じていました。
その動画制作プロダクションは社員80名くらいの会社なのですが、経営企画部門だけで10名くらい。つまり、社員の8人に1人がバックオフィス要員という、売上と人件費の比率で考えると、恐ろしい体制になっていました。システム化することで、データ取得からそんなに間を置かずに経営陣が必要な情報を得られる仕組みをつくる。そんな体制をつくれれば、経営企画に多くの人員をさかずにすみ、人員削減が可能になるわけです。
締日前でも会計数字を確認できる
そこで、たとえばfreeeのシステムを導入すれば、すべてのデータがひとつのシステムに集約できる。開発が入力した外注費のデータも、営業が入力した契約金額のデータも、各スタッフが経理に申請した経費のデータも、すべてひとつのシステムに集約されています。ですから、これらのデータをプロジェクトごとにまとめて閲覧することもワンクリックでできます。どのプロジェクトが非効率で、赤字になりそうなのかを、締日の前にチェックできるのです。
締日前の情報ですから、100%ではないにせよ、80%~90%の精度は確保できます。赤字になりそうかどうか判断し、なにか手を打つ意思決定をするには十分な精度です。ここにさらにSFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)などのシステムを併用していただければ、よりリアルタイムに近づけられます。また、営業の提案や見積もりの段階から粗利を予想できます。より的確な意思決定をする助けになるはずです。
今後は、freeeのシステムについて、ほかのシステムとの連携を強化していくバージョンアップを行っていきます。それにより、経営者の方が、たとえば「プロジェクトAの粗利」とキーワードを入力すれば、その金額がExcelで出てくるようにしたい。より精度の高い意思決定ができる流れになっていくと思います。
アプリ開発ベンチャーの事例を紹介!
松場
さて、ここからは、freeeのシステムを使っていただいているユーザー企業さんの事例を、実際にシステムを操作している管理部門の責任者の方の肉声をまじえてお伝えしたいと思います。株式会社ブレイブソフト様です。執行役員 管理本部長の堀田正人さんにご登場いただきましょう。それでは堀田さん、よろしくお願いします。
堀田
ありがとうございます。ブレイブソフトの堀田と申します。私たちは東京・三田に本拠を置き、今年で14年目を迎えるスマートフォン向けアプリの開発会社です。事業は受託開発をメインとしており、たとえば民放TV各局の見逃した番組を視聴できる『TVer(ティーバ)』の開発を手がけています。また、自社事業も展開していて、BtoB向けには『イベントス』というイベント運営を効率化できるアプリなどを、BtoC向けには写真にひとこと添えてアップする大喜利アプリ『ボケて(bokete)』などを展開しています。
松場
ブレイブソフト様は1年ほど前に他社サービス からfreeeへとリプレイスする形で導入していただいています。どんな変化がありましたか。
堀田
定型の処理業務にかけていた時間を約半分にカットできました。その時間を企画的な仕事や、今後の目標である株式上場へ向けての仕事などに充てています。freeeを導入していちばんよかったのは、仕訳をAIが自動的に行ってくれることです。管理部門のスタッフは、それをただ消し込んでいくだけ。大幅に作業効率が上がりました。
松場
本日のテーマは「経営の意思決定」についてですので、最適な意思決定する際に必要なものとはどういったものだとお考えか、聞かせてください。
堀田
「利益につながるかどうか」の情報でしょうか。利益を追求していくのが企業の最大ミッションだと思っておりますので、新規事業を立ち上げる場合でもそうですし、「システムを導入したい」とか「なにかモノを買いたい」とかいう場合でもそうです。最終的にはそれが利益につながるものであればゴーサインを出します。
松場
「利益につながるかどうか」を判断する基準としてKPIを設定するケースが多いと思います。たとえば開発プロジェクトを請け負うとき、ブレイブソフト様ではどういったものをKPIとしていますか。
堀田
「粗利益率50%以上」をKPIとして設定しています。
松場
バックオフィス部門は、そのKPIに対してどのように向き合い、管理しているのでしょう。
堀田
「生きた数字」と向き合うことを意識しています。最近、ほかのベンチャー企業のCFOの方と話す機会が多くあるのですが、私の印象では、経理畑出身の人は少なく、事業部門出身の方が増えているように思います。私自身、SEから営業を経て、経理に移っています。こうしたキャリアの持ち主が増えているとすれば、「生きた数字」を管理できるCFOが求められているからでしょう。
経理は確定した数字をあつかっています。しかし、事業部門があつかう数字は日々変動する数字なのです。 CFO自身が「生きた数字」に対する感受性をもち、たとえば現場から出てきた数字が信憑性あるデータなのか判断する。あるいは現場が立てた目標について、達成できる数字であるか判断する。「それは実際にやってみると大きな乖離が生じる」と意見できるのが理想のあり方です。
松場
なるほど。最後に、今後のビジョンを聞かせてください。
堀田
2020年に上場しようとして現在動いています。一方で、創業期から醸成してきた“ブレイブソフトらしさ”を失いたくはありません。社員50名で売上高10億円くらいの会社ですが、“ブレイブソフトらしさ”をいちばんに考えながら上場を目指していきたいと考えています。
松場
どうもありがとうございました。