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“懐刀”“参謀”・・・No.2探しの三原則とは?

“経営者研究”の第一人者が語るナンバー2論

慶應義塾大学大学院理工学研究科 特任教授 小杉 俊哉(こすぎ としや)

INOUZTimes編集部
“懐刀”“参謀”・・・No.2探しの三原則とは?

経営者は孤独だ。経営の重責をわかちあってくれ、よき相談相手になってくれるナンバー2がいてくれたら─。そう願う経営者は多いだろう。だが、社内の人材を育成するにせよ、外部から招へいするにせよ、優秀なナンバー2を確保できた経営者は少ない。数多くの経営人材に接してきた企業リーダー論の第一人者・小杉氏に、ナンバー2をつくる方法を聞いた。

幹部候補の人材に問うべき質問

—経営幹部や、その候補者の適性を見抜く方法を教えてください。

 肩書きでなく実績をみることです。会社の成長を牽引してきた有能なトップがおちいりやすいワナが「ウチの会社もこんな立派な人材が入りたいと思うまでになったのか」という視点で判断してしまうこと。

 「有名大学を卒業している」「旧財閥系の企業に勤めていた」「グローバル企業の役職者だった」…。そんな人材が「御社に入りたいです!」と希望してくれる。それが、自分が築き上げた会社が世の中に認められたあかしのように思えて、優先的に採用してしまうんです。でも、そんな肩書きは経営能力にはなんの関係もない。

原則1:ヒト・カネを動かした経験を問え

—どこに着眼すればよいのですか。

 「ヒトとカネ」を動かした経験があるかどうかです。たとえば私があるITベンチャーの上場に向けて経営人材の採用をサポートしたときのこと。求人に対して、大企業でキャリアを積んだ40〜50代の役職者が応募してきました。

 そういう人に対しては、採用面接の場で、私は必ず「新規事業や変革を提案してやり遂げたことがあるか」と聞くんです。ほとんどの人はそこで首をヨコに振る。そこで不合格。どんなに立派な肩書きをもっていても、それではベンチャーで機能するわけはない。

 一方で、一流大学出身でなく、無名の小規模な会社にいる人でも「プロジェクトの企画提案・交渉・納入から人事まで、すべて責任をもってやってきました」と。こんな人材なら見込みがあります。こうした経験は仕事上のものでなくてもいい。たとえば最近知り合ったNPOを運営する大学生。週末になると300名以上の学生を統率している。20代前半で貫禄すら感じました。こういう人材が経営幹部になれる適性をもっています。

—そうした人材を社内で育成する方法を教えてください。

 見込みのありそうな若手を抜擢して、大きく権限を委譲し、ヒトとカネを動かす経験を積ませるのが早道です。子会社を立ち上げて、社長にすえるのがいちばんいい。

 大企業の例ですが、キヤノンの御手洗冨士男会長兼CEOやパナソニックの中村邦夫元会長、そして日立製作所の川村隆相談役。この3人はいずれも大企業の立て直しや構造変革を成し遂げた功績のあるトップです。そして共通するのは、トップに就任する前に関連会社や海外法人の経営者を務めた経験があること。3人とも、それぞれ紆余曲折あって本社のトップの座に就いた。そして関連会社や海外法人のトップを務めた経験を活かし、大きな変革を成し遂げたのです。

 これは中小・ベンチャーでも可能です。子会社をつくり、若手に経営をさせるのです。経験を積ませた後、本社に呼び戻し、ナンバー2や後継者にするわけです。

原則2:性格はトップと正反対を選べ

—性格面では、どのような人材がNo.2に向いていますか。

 トップとは異なる性格をもつほうがいいでしょう。相反するぐらいでちょうどいいかもしれません。

 じつは,トップに引き立てられて就任するナンバー2が、後々トップにうとまれて失脚するケースが多いのです。それは、自分に似たタイプの人材を気に入り、引き立ててしまうからです。有能な社長ほど「私が成功したように、こいつも成功するだろう」と考えてしまいがち。そして自分の思い通りになるだろう、とも。

 でも、同じタイプが経営のボードメンバーにいると、果たす役割も重なります。No.2が意思決定しようとすると、トップの目には「それは私の仕事だ。僭越だ」と。そんなことが積み重なって、「取り立ててやったのに何様のつもりだ」という不信感に繋がり、結局、ナンバー2を失脚させてしまうのです。

—相反する性格でうまくいったNo.2の事例を教えてください。

 本田技研工業の創業者である本田宗一郎さんとその右腕だった藤沢武夫さん。夢を語るエンジニアだった本田さんと、きっちり数字をつくる実務を引き受けた藤沢さんのコンビは、役割を明確にわけてよい関係を長期間続けた理想的な例です。

 ベンチャー企業でいえば、サイバーエージェントの例があります。ナンバー2といえるかどうかわかりませんが、人事本部長の曽山哲人取締役が藤田晋社長の右腕になっています。藤田社長は大きなビジョンを掲げることにたけたリーダーですが、他人にわかりやすく意思を伝えることは必ずしも得手ではない。その点、曽山取締役が的確に藤田社長の意思を“翻訳”して組織全体に伝えています。

原則3:経営者がその人を育成する覚悟を持て、でなければ失敗する

—自分と正反対の性格の人材を引き立てるというのは難しそうです。

 そうですね。でも、それぐらいの覚悟をもたないと、No.2をつくるのは困難です。

 国内では経営幹部になれる人材の絶対数が不足しています。米国のビジネス社会では、プロの経営者として業種を問わず、さまざまな企業から経営トップもしくは幹部として招へいされる人材の層が厚い。またシリコンバレーでは、いちど起業して失敗した人が別のスタートアップの経営幹部に就いたりして、ベンチャー経営のエキスパート層が形成されています。

 国内にはそういう人材層がないので、経営者がよほどの覚悟をもって幹部人材の育成を推進しないと、失敗する確率が非常に高いのです。

小杉 俊哉(こすぎ としや)

慶應義塾大学大学院理工学研究科 特任教授

1958年、新潟県生まれ。1982年に早稲田大学法学部を卒業し日本電気株式会社入社。海外営業や法務を担当する。1989年にマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院へ留学、1991年修士課程修了。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーで戦略コンサルタント、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピューター株式会社人事総務本部長兼米国アップルコンピューター社HR担当ディレクターなどを経て、独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授を経て、現在はTHS経営組織研究所代表社員、慶応義塾大学大学院理工学研究科特任教授(非常勤)、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授などを務めている。

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