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2017/5/19

“目に見える報酬”は身を亡ぼす

~長蛇の行列をつくりだす「一蘭」の濃厚な理念経営【後編】~

株式会社一蘭 代表取締役 吉冨 学(よしとみ まなぶ)

INOUZTimes編集部
“目に見える報酬”は身を亡ぼす

PHOTO:株式会社一蘭

【前編】では一蘭の理念経営の原点に迫りました。後編では、IPOを目指さない理由、海外進出の秘話、独自の組織哲学などをお届けします。

世界戦略の武器は地元ブランドの確立

前編では起業のきっかけ、社員の裏切りを発端とする吉冨さんの死を覚悟した京都への出奔、そこで心が切り替わるできごとがあり、理念経営へと舵を切った。そうした起業前後の経緯を聞きました。後編では事業戦略も聞きたいと思います。

私は商売の秘訣というのは、どんな事業でもそうですが、ブランドだと思います。

ブランドとは、独自性、専門性、そして物語性という3つの要素で構成されていいます。一蘭でいえば「味集中システム」といった独自性、ラーメン専門店という専門性、そして「博多とんこつラーメン」という物語性。

博多と言えば、水炊き、もつ鍋、明太子、いろんな名産がありますが、なかでもとんこつラーメンは仙台の牛タン、大阪のお好み焼きやタコ焼きに匹敵します。博多に来たら、みなさん一度は食べたくなる。そんな食べ物ですよね。

一蘭はそんなとんこつラーメンの本場である博多の代表、「博多とんこつラーメンと言えば一蘭だよね」といった物語性を取り入れているんです。そのための投資は惜しみません。

―たとえば、どんなことに投資したんですか。

代表例が「一蘭の森」。東京ドーム2個分の広大な敷地に建設した、森の自然と自社工場が一体となった複合施設です。福岡市のお隣の糸島市にあり、いまや福岡県の観光地のひとつだと言われています。

いま、ラーメンがどんどん世界進出していますよね。いろんな会社さんが香港、ニューヨーク、フランス、イタリアなど、世界の外食産業が激しい競争を繰り広げている場所に進出しています。

それだけに、ただ物珍しいだけでは勝負になりません。ブランドが必要です。それに、どこにいてもネットで世界中の情報が簡単に手に入る時代です。海外のお客さまも日本のラーメン事情を知っているんです。

“とんこつラーメンと言えばHAKATA(博多)だよね。じゃあHAKATAでイチバンのラーメンはどこだ?”―。こうなるじゃないですか。

ワインならフランス、なかでもボルドー。だったらボルドーでナンバーワンのシャトーのワインを飲みたい。それと同じことです。

ですから、とんこつラーメンの本場である地元の博多で、きちっとブランドを確立していくことが世界戦略を進めるうえでも重要。そう思っています。だから、地元でブランドを確立するための投資は惜しみません。

―そうしたブランドを現場で体現しているのは人材ですよね。どのようにして人材を育成しているんですか。

その土台は前編でもお話しした理念です。当社の理念は108つあり、そのどれもが私の心の奥底からわきあがった言葉。誰もが理解でき、共感できる、人間として当たり前のことが書かれています。

理念のひとつに「人の心を大切にしましょう」という言葉があります。それはたとえば、部下であろうと入社したての新入社員であろうと、アルバイトスタッフであっても、誰も人のことを「おい、お前」とは言わない、ということで体現されています。

「社員もアルバイトスタッフも、みんな自分たちの仲間。そんな仲間たちは、ご家族からの預かりものであって、会社の所有物でも、あなたの所有物でもない。だから『おい、お前』と言ってはならない」。こんな風に具体的な行動レベルに落とし込みながら浸透を図っています。

「味集中カウンター」は「一蘭ブランド」の大きな特徴のひとつ
PHOTO:株式会社一蘭

「10年で売上1,000億円」の誘いを断る

―ラーメン店と言えば徒弟制度のイメージで、師弟関係のなかでは上から下への言葉は荒くなるのがフツーかなと思いますけど。

徒弟制度、師弟関係は楽なんです。上の言うことは絶対正しい、ハイハイと言っているだけでいいんです。自分の頭で考えない“イエスマン”に徹すればいいだけなんですから。

相手が社長なら、ゴマさえ擦っていればお近づきになれるし、可愛がってくれる。そうしていれば自分を引き上げてくれるかもしれない。

でも、それって馴れ合いに過ぎません。会社から切磋琢磨がなくなり、本当の情報も入ってこなくなる。非常に危険なことです。

創業時の当社がそうでした。体育会系というか、「おい、お前、やったるで」「ナンボ売り上げるぞ」といった言葉が飛び交い、儲かったら給料を弾んで、「東京に遊びに行くぞ」「ハワイだ」「スキーだ」と、そんなことばっかりやっていました。

―そうしたイケイケの盛り上がり感も求心力や団結力を高めるうえでは効用があったりするんじゃありませんか。

それが楽しいと感じているベンチャーの経営者は少なからずいらっしゃるようですね。効果があるのかないのかで言えば、ゼロではないと思います。

でも、私が最初から「人の心を大切にする」経営をしていたなら、もっと大きな会社になっていたはず。そんな後悔があります。なぜなら、商売とは世の中に尽くし、お客さまに認められてはじめて儲かるものだからです。

一蘭という会社は、自分たちがいい暮らしをするためではなく、おいしいラーメンをお客さまに提供し、喜んでいただくために存在している会社。その結果として、後から儲けがついてくるんです。

「あれがほしい」「これがほしい」と社長が我欲で経営し、社員も我欲で働いている会社でも、一時的な小さな成功はあるかもしれません。しかし、そんな会社は世の中から支持されません。継続的な成長はできないでしょう。

―欲は目標達成のエンジンで、大きな欲をもつことはいいことだ。そう考えている経営者も多いと思います。

「いい生活がしたい」「もっと贅沢したい」と言っている人と「もっとお客さまの気持ちを大切にしたい」「もっとラーメンの味をよくしたい」と考えている人、どちらにお金が行くでしょう。

欲をもつからお金が集まるのではなく、なによりもお客さまの顧客満足度を優先するから儲けることができるんです。この順番を間違えたら絶対にダメですね。

先日、ある世界的な海外の会社さんから「アライアンスを組まないか」というお申し出をいただきましたが、丁重にお断りしました。「当社と一蘭が組めば、10年以内に売上を1,000億円にできる」というお話で、確かにその会社さんの知名度を利用すれば実現できる。そう感じました。

でも、お金儲けを目的にして経営するより、人の心を大切にし、根をはやしていきながら、じわじわやっていく一蘭の方が、お金儲けに走る一蘭より絶対に大きくなれると思うんです。だからお断りしました。

コキ下ろされた香港進出

―なぜ、そう言い切れるんですか。

お金儲けを目的としている会社にとって、従業員はコストにすぎません。でも、私は従業員はかけがえのない資産だと考えている。

今まで一蘭を愛してくれた社員やアルバイトスタッフたちの上に「従業員はコスト」と考えるような変なのがきたら(笑)、おいしいラーメンなんて絶対につくれません。

IPOもするつもりは一切ありません。株を公開すると会社は株主のものになってしまう。そして株主たちは効率を追求し、従業員をコストと考えますから。

商売とは知恵の勝負。ここで言う知恵とは「人と違うことをする」ということです。1,000人中999人が「ウソだろ?」「バカじゃない!?」と反対するようなアイデアであればあるほどいいんです。

でも上場したら、そんなプランなんて株主総会で「お前はバカか」と一蹴されるだけ。ですから、まったくIPOに魅力は感じていません。

一蘭が香港に進出したときもそうでした。香港進出を発表すると、私はマスコミから袋叩きに遭いました。

「香港の人はついたてで仕切った店に行かないでしょ」「24時間営業なんてムリ」「1,200円の価格設定なんて高過ぎる」と批判され、「一蘭の香港進出は絶対に失敗する」と決めつけられました。でも、私には勝算がありました。

―その理由を教えてください。

“アフリカの靴売り”というマーケティングの有名な話なんですけど、アフリカの部族に靴を売ろうとなりました。

Aさんは「失敗するよ。だって、あの人たちは靴を履いてないじゃないか」と。一方、Bさんは「靴を履いてないからこそ、大きなチャンスだ」と考えました。

それと同様に、一蘭のような店がないからこそ、大きなチャンスがあると確信していたんです。

実際、フタを開けるとオープンから8日間、ずーっと行例が絶えない大賑い。香港ディズニーランドより人が並んでいると言われました。

ニューヨーク出店もそうでした。「アメリカ人は会話が好きだから、ついたては通用しない」。そう言われました。ニューヨークの店舗は、ついたてのカウンター席と屋台のようなオープン席のふたつに分かれています。

ニューヨークの店舗にお越しになったアメリカのお客さまに「ついたてとオープンな屋台のような席、どちらがいいですか」と聞くと、大抵、「ついたて」とみなさん言います。

「一蘭」のブルックリン店(アメリカ・ニューヨーク)
PHOTO:株式会社一蘭

肩書は邪魔

―我欲をもたないから大きな成功ができるということですけど、個人の成長はどうなんでしょう。出世は自己成長をわかりやすく感じられる便利な尺度だと思います。出世したいという想いも我欲なんでしょうか。

役職、地位、名誉、お金。これらは全部、“目に見える報酬”です。日本はもちろん、世界中の人たちは“目に見える報酬”を追いかけ、会社は社員にそれを追いかけさせています。

でも、より上の役職につきたいのなら、よりお金をもらいたいなら、それを与えてくれる会社に移ればいいだけのこと。 “目に見える報酬”を社員に求めさせている会社は、自分で自分の首を絞めている。私にはそう見えます。

一蘭には、社長以外の役職はありません。部長も課長も主任も、あらゆる役職がないんです。能力を磨く、人間として成長するといった“目に見えない報酬”を求めるうえで役職や肩書は必要ないからです。むしろ邪魔でさえあります。

たとえば、同期入社の男性社員が2人いて、奥さん同士が仲良しだったとします。そして、それぞれの旦那さんの一方が主任で、もう一方が部長だったら、主任のご主人の奥さんは「アンタ、がんばりなさいよ」と言いたくなりますよね。

社員も「女房のために部長になろう」と思っちゃう。でも、仕事の本質とはそうじゃない。ライバルよりも出世したいから仕事をするのではなく、お客さまに喜んでいただきたいから仕事をする。

それが我々の根源なんです。だから、本質的な仕事をしていくうえで肩書はいらない。邪魔なんです。

―ところで、創業期に集団で会社を辞め、裏切っていった当時のメンバーについて、いまはどういう気持ちなんですか。

感謝しています。「当時の自分とは逆のことをやれば会社を大きくすることができる」ということを教えてくれたのですから。

「一蘭」の組織図(同社ホームページより)

連載記事

長蛇の行列をつくりだす「一蘭」の濃厚な理念経営【前編】

吉冨 学(よしとみ まなぶ)

株式会社一蘭 代表取締役

1964年福岡県北九州市生まれ。大学2年生で、ファミコン販売業、人材派遣業を個人で起業。1993年に有限会社一蘭(現・株式会社一蘭)を設立。ラーメン事業に専念するため、派遣事業を部下に譲る。2007年、ニューヨークに現地法人ICHIRAN U.S.A., INC.を設立。一蘭の2016年12月期の売上高は174億円、68店舗(2017年5月時点)、社員数319名(2017年5月時点)、アルバイト数5,257名(同)。香港、ニューヨークに進出を果たしたほか、2017年夏には台北に出店予定。

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