多種多様な事業を展開
―アンファクさんの足跡を見ると、まるで映画というか、フツーじゃない。そんな感想をもらすベンチャー企業の経営者が少なくないです。
『なんかウラがあるんだろ!?』ってことですね(笑) ウラなんてなにもないですから、なんでも聞いてください。
―いえいえ、そういう意味ではないんですけど…(汗) でも、不思議に思う経営者は多そうな気がします。まず、アンファクさんをよく知らない読者のために、事業内容から聞かせてください。
当社の旗印は「スマートフォン・アイデアカンパニー」。これまでに50タイトル以上の自社アプリを開発・運用した実績を活かし、ツール系アプリやゲーム攻略掲示板アプリ、マンガアプリを中心に複数の人気アプリをリリースしています。マンガ特化アドネットワークも提供しています。
大手出版社と提携してリリースしたマンガアプリをスマホ普及が急増しているアフリカのケニア共和国とナイジェリア連邦共和国でもリリースを開始しました。今後、アフリカの他の国でも配信して行く計画です。
IoT事業としてスマートホステル「&AND HOSTEL 」の企画開発プロデュース、宿泊・売上管理システムの「innto(イントゥ)」や客室価値の向上を図るタブレットサービス「tabii(タビー)」の提供も行っています。H.I.Sホテルホールディングスさんと提携し、ロボットがスタッフとして働くホテルとして話題の「変なホテル」などにも採用していただいています。
ちなみにIoTとAIを通じて高齢者の見守りや快適で健康的な暮らしを実現するための「未来の家プロジェクト」はNTTドコモさん、横浜市さんと立ち上げたのですが、12社が追加で参画いただいています。
起業時から進めた「権限移譲」
―いろんなビジネスを手がけていますね。一方で事業構造がバラバラな気もします。
一見するとマンガアプリとホテルには関連性がないと感じるかもしれません。でも、当社が進出している領域は全部、古い慣習が残っていて、そこに対しテクノロジーを持ち込むことで変わる、進化が可能になる。そんな共通項があるんですよ。
たとえばホテル。宿泊して部屋の代金をいただいて終了、という構造はホテル業が誕生して以来、ほぼ変わっていません。でも、そこにテクノロジーが介することで広告メディアに変えられることができるし、IoTの導入で快適なエンタテインメント空間に変えることもできる。新しい付加価値を生むことができるんです。
―古い慣習が根強いがゆえに、テクノロジーによる変革に成功したらシェアをとれる。そんな領域に狙いを絞っている、ということですね。でも、それぞれの事業領域で求められる人材要件はかなり違い、社内をまとまめるのは大変そうに感じます。そこはどうマネジメントしているんですか。
権限移譲をしています。起業当時から事業部門だけではなく管理部門のバックオフィスにいたるまで、私がこれまで出会った人たちのなかで「優秀だ」「一流のプロだ」と思った人材に入社してもらい、そうしたメンバーに権限移譲をして任せています。
スタートアップ段階では、営業・開発・経理など、経営者がひとりですべての会社業務をマルチに見ているケースが“あるある”かもしれませんけど、私の場合は最初から組織づくり、体制づくりを明確に意識していました。
「個人の成長」と「会社の成長」は一致させられる
―なぜ、そう思ったんですか。
会社を急成長させるためにはトップがビジョンや戦略など大きな絵を描いて周りを巻き込んで進めないとムリ。経営者はそこだけに集中すべきであって、ほかの仕事はやるべきではない。そんな想いがありました。
それと、会社の急成長を維持させるには、個人の成長と会社の成長がつながっている必要が絶対にあります。「やらされている」感があるとすぐに行き詰まるし、いいアイデアなんて生まれません。ひとりひとりにやりがいのある役割があり、それをまっとうすることが会社の成長とリンクしている。そんな状況をつくり上げるためには権限移譲が不可欠なんです。
―なるほど。でも、権限移譲って難しいですよね。任せっぱなしはリスクがあるし…。
もちろん、つどつどに必要な“報連相”は受けてますし、コンプライアンスなど上場企業として経営者が管理しなければならないことは、しっかりチェックしています。しかし、経営者としてやらなければならないこと以外は、日常のコミュニケーションのようなカタチで担当役員などとディスカッションして決めて、決まったあとは完全に任せます。必要なフォローやアドバイスはしますけど、細かな口出しはしません。
たとえば当社では割と早い時期から“日次決算”を行っているんですが、これも担当役員と「日次決算をしよう」ということを話し合って決めた後は、具体的なやり方は任せました。こんな感じで当社のあらゆるモノゴトは進みます。
―いちいち経営者が口をはさんでいたら任せたことにはならないですよね。
そうそう。それと、権限移譲のポイントは、立場があってその人がやらなければいけない、ということではなく「適切な人に適切なものを渡す」こと。「その人の立場に」ではなく、「その人に」権限移譲することだと思っています。
―「開発チームの責任者なんだからやれ」ではなく、「あなたに権限委譲するんだ」という考え方ですね。でも、権限移譲の対象者にとってもチャンレンジで、やり切れるかどうか心配な場合もありますよね。
そんなチャレンジをやり切り、成功したときの個人は大きく成長できるし、同時に会社も成長します。ですから任せた側は、任せたからといってなにもしないのではなく、任せた人がやり切るまで見届けなければなりません。権限移譲をしつつ並走するから、個人と会社の成長をリンクさせることができるんです。
社員全員の評価面談を一手に引き受ける
―そうなれば会社とメンバーの間に強い一体感が生まれそうですね。でも会社が大きくなり、メンバーも多くなれば、一体感を持ち続けるのは難しいですよね。
確かに、規模や組織が大きくなるほど経営者と現場に距離ができがち。そうなると現場から見て経営陣はなにを考えているのかわからない“雲の上”の存在になってしまい、なにを目標にして働けばいいのか、わからなくなってくる…。自分が起業するにあたって、そんな会社には絶対にしたくありませんでした。
それを避けるために、半期に1度の現場メンバーの評価面談は全員、自分がやっています。会社の創設時からです。面談時間はひとりあたり30分から1時間。先日も朝から晩まで、1日で15人と面談しました。
その場を通じ、直接コミュニケーションによって「メンバーがどんな想いをもっているのか」「なにをやりたいのか」「会社に不足しているのはなんだと思っているのか」「会社のどこを変えたいと思っているのか」などを聞いています。いまどんなチャレンジしていて、この先どうなりたいのか。メンバー全員の状況やビジョンも把握しているつもりです。
―アンファクさんの社員数は70名超ですよね(注・2019年2月末時点の社員数)。経営者自らひとりひとりと面談するのは、かなり限界にきているのでは…。
経営者の役割って、みんなが働く環境、成長できる環境をつくることだと思うんです。ですから、やるべきことであり、大変だなんて思っていません。社員数が100名を超えても、自分がメンバーひとりひとりと面談することはできるし、やり続けなければならないことだと思っています。
スタートアップで規模が小さかった頃は経営者が直接面談していたけど、社員数が増えたからできなくなった、なんて私から言わせれば単なる言い訳。全然できるし、会社の方向性と社員個人のやりがい・ビジョンを一致させないと会社の急成長は持続できませんから、当然、必要なことだと思います。経営者がひとりでできることなんて、たかがしれているんです。メンバーみんなが成長してくれるから会社も成長できるんです。
それに、経済合理的にも、この方がおトクなんですよ。
採用に困ったことがない
―どういうことでしょう。
実は当社は期初の計画で退職者数をあらかじめ織り込んでいません。年間の退職率は1.5%くらい。ほとんどメンバーが辞めないベンチャーなんです。権限移譲で任せる文化、直接コミュニケーションによる風通しのよい文化、働きやすい風土があり、自分の成長と会社の成長が一致しているので、だれもが会社のことを「自分事」と考えてくれている。だから定着率が高いと思うんです。
結果、採用コストを低く抑えることができるし、成長できる働きやすい環境、チャレンジできる環境を求めている才能豊かなプロの人材がどんどん集まってくれます。自慢話になっちゃいますけど、採用難の時代だと言われますが採用で困ったこともほとんどありません。これって経済合理性があると思いません?